Asia Arsenic Network - 特定非営利活動法人 アジア砒素ネットワーク

AAN内蒙古プロジェクト報告

中国内蒙古プロジェクト96-99

内蒙古自治区の砒素汚染地に設定したモデル村で、1996年4月から4年間にわたって、地下水汚染と住民の健康の調査およ住民の半数以上の症状が改善される成果をあげました。

96年度は、河套平野の2つの地域で健康調査と環境調査を実施し、それぞれの住民の35%と61%が砒素中毒患者であること、その原因が井戸水に含まれる砒素であることをつきとめ、97年度は、五原県勝利村をモデル村に定めて、水文地質学的な調査によって、深くなるほど地下水中の砒素や塩分の濃度が高くなり、飲料には適さないことを明らかにしました。

98年度は、砒素や塩分や有機物に汚染されていない地下水を確保するために、15の村で水文地質調査を実施し、105本の観測井戸を掘って、黄河からの灌漑用水路沿いに安全な水源を確認しました。住民の役務提供による水道敷設工事をおこなって、総延長約30キロの簡易水道を完成させ、モデル村の2000名に対する給水を開始することができました。

この事業は、五原県海子堰郷人民政府と内蒙古自治区地方病防治研究所の協力によって進められ、この間、地域住民に対し砒素汚染に対する啓発教育を実施し、地域住民が解決のために主体的に取り組むことができるようにしました。また、モデル村の住民2000人に対し毎年2回健康調査を実施し、99年度の健康観察検診の結果、砒素中毒にかかっていた住民の53%に臨床症状の改善がみられ、安全な飲料水供給事業の有効性が確認されました。

中国内蒙古プロジェクト2004

96年~99年に実施した、飲料水砒素汚染問題に対する「モデル村改水事業」は現地で高く評価され、これを契機とした行政指導の改水事業も進みました。しかし、その安全性や安定性についての知見は必ずしも充分ではなく、経済的事情も含めた対応困難地域も残されています。また砒素暴露を受けた中毒患者の治療や健康管理については、ほとんどその取り組みがなされていません。

「モデル村改水事業」から5年、この間に蓄積された医学的知見・水文地質学的知見などを現地に還元し、地域住民の安全な生活環境の確保のために役立てようと内モンゴルでの活動を再開しました。また改水事業の5年後追跡調査を実施することで、現地の当事者たちと総合的な問題把握をおこない、問題解決のための指針をたてることを目的に活動しました。

活動の概要

  1. 5年後追跡住民検診と水文地質学的補充調査の実施
    6~7月と10月に実施し、210名の追跡検診と3つの村の水文地質補充調査をおこないました。
  2. 現地住民への環境教育報告会の実施
    6~3月の間に小集会方式で実施しました。また、現地のニーズに応じるため検診結果等は即日報告し、必要に応じて農村への戸別調査も実施しました。
  3. 学際的砒素フォーラムの開催
    現地五原県を中心に4回開催し、環境部門・公衆衛生部門の関係者約250名の参加がありました。
  4. 普及書的な活動報告書の作成
    中国語の配布資料とブックレットは完成し、総合的な報告書は校正の段階にはいっています。次年度も継続して作業を進め、普及書的なかたちで完成させます。

活動の結果と効果

活動は、当初計画以上の成果をあげることができました。

  1. 長期にわたる各種調査の成果は、安全な飲料水確保の方法を現地の事情に即した具体的な方法として提示できました。
  2. 飲料水改善の結果、健康被害に顕著な改善がみられ、当事者と共に改水事業の成果を共有できました。
  3. 健全な生活環境を確保するためには、水利用のあり方をふくめ総合的な環境施策や保健施策が必要であり、連携して取り組む必要性が確認されました。
  4. 活動が現地で報道されたこともあり、同種同様の課題を持つ地域から助言を求められ、有効な関わりを持つことができました。
    特に、新たな砒素汚染地域の相談に対し、調査の重要性・その具体的方法を教示できたことは、人的被害に至る前の環境改善活動への重要性を確認することとなりました。

中国内蒙古プロジェクト2005

2004年8月、内蒙古自治区正藍旗において飲料水の砒素汚染が明らかになりました。正藍旗は少数民族がほぼ半数をしめる民族雑居地域で、自治区の中でも辺境地区です。近年牧畜業の形態が変化し、住民たちの基本的生活条件も変化してきました。その結果、生活に不可欠な飲料水が不足し、悪化してきています。なかでも宝紹岱のいくつかの村は砒素濃度が高くて、飲料に適さない地下水を飲用せざるを得ない環境にあります。

現地の改水事業へのニーズは高いのですが、そのためには総合的な環境保全の視点に立って、専門的な水文地質的調査結果を踏まえた計画が必要とされます。現地にはその知見が乏しいことから、河套平野での改善実績をもつAANに協力の要請がきました。そこで、地球環境基金の助成を受けて、今後も生活環境の悪化が見込まれる正藍旗の汚染地域において、現地と協力して問題解決にあたることにしました。

この年度の活動は、問題解決のための調査が主でした。汚染状況や汚染メカニズムを明らかにしました。改善のための代替水源も把握しました。これらの調査結果をもとに、安全な飲料水を住民に届けるための活動を、次年度以降汚染地住民と協力して進めます。

活動の概要

2回の予備調査と2回の本調査を現地で実施し、年度の後半は調査結果の分析と評価ならびにフッ素除去剤の開発の実験に取り組みました。まず、年度当初から6月までを予備調査とし、正藍旗の汚染状況を調査しました。この予備調査は、モデル地域を選定することを目的とし、日本の調査チームが現地の調査員を指導し、指導を受けた調査員が中心となって進めました。

7月から9月には2回の本調査を実施し、5つのモデル地域を精査することにしました。住民健康調査や水文地質学的調査、電気探査、試掘ボーリング等を実施しました。汚染物質の特定やその原因解明、問題解決への方策を探ることが目的です。

10月からは、国内で調査結果の分析評価やフッ素除去法について分析実験をおこない検討を重ねました。分析や実験は中国の華南大学や新潟大学の協力を得て進めてました。

活動の結果と効果

飲料地下水はフッ素、硝酸態窒素、砒素に汚染されている。砒素については局所的であり汚染の程度も比較的軽微だが、フッ素と硝酸態窒素の汚染は広範囲であり汚染の程度も高い。

フッ素汚染の原因は、現地の蛍石や燐灰石に由来し、流動時間が長い地下水に溶解したことによる。硝酸態窒素汚染は家畜の排泄物が原因である。

安全な飲料水の水源としては、水文地質学調査や電気探査の結果、汚染地から一定距離内に代替水源が確保できることがわかった。

現地には汚染地に小集落も多いことから、簡便なフッ素除去装置の開発も必要である。

中国内蒙古プロジェクト2006

06年度は、04年度から調査している錫林郭勒盟(シリンゴルメイ)・正藍旗での飲料水対策に加え、現地の要請に応える形で、同盟にある蘇尼特右旗(スニットウキ)でも砒素汚染調査を実施することになりました。

5月に現地を訪問し、正藍旗で安全な飲料水を供給するための水道施設建設に関する打ち合わせと、蘇尼特右旗での予備調査をおこないました。蘇尼特右旗・サンボラゲスム周辺の地域にある7つの井戸を調査した結果、0.07~3.79mg/ℓ もの高濃度の砒素がすべての井戸から検出されました。また、砒素だけでなく、フッ素にも汚染されていることがわかりました。さらに、砒素暴露を受けていると思われる12名の地域住民に対して症状の確認調査をおこなったところ、手足の角化や色素沈着・脱失などの慢性砒素中毒症に見られる特異的な症状が全員から確認できました。

5月の予備調査の結果、蘇尼特右旗の砒素汚染は深刻であり、汚染の原因を解明するためには、水文地質学的なさらに詳しい調査が必要であることがわかりました。

5月の調査結果を踏まえ、9月に再度内モンゴルを訪問し、蘇尼特右旗での本調査を実施しました。今回の調査は、水文地質や鉱物の専門家の協力を得て、蘇尼特右旗の砒素汚染原因を調査しました。井戸水の砒素濃度を廣中式フィールドキットで測定した結果、5月の調査結果と同様、高濃度の砒素に汚染されていることが確認できました。詳細な水質の分析は現在進めています。患者確認もおこない、前回の調査で検診した12人中6人の追跡調査を実施することができました。このうち、1人の青年は劇的に症状が回復していました。5月調査の後、近くの井戸が砒素に汚染されていることを知った青年は、砒素に汚染されていない水を運んで飲むようになったそうです。砒素中毒症を治すための最もよい薬が「安全な水」であることを示すうれしい出来事でした。しかし、今回新たに症状確認をおこなった4人中2人から、砒素による中毒症状を確認しました。

今回、地質調査をおこなった結果、第三紀層が帯水層となっている井戸は砒素に汚染されていないが、同じ第三紀層の地質であっても、断層や亀裂があるために高濃度の砒素に汚染されてしまった井戸があることがわかりました。これらの調査結果は、現地旗政府にも報告をおこないました。今後の活動や対策については、水質分析の結果や水文地質学的な調査結果を踏まえて、これから関係者と協議を進めます。

9月の訪問では、正藍旗に建設した水道施設の竣工検査を実施するとともに、正藍旗政府が主催する完成式典にも出席しました。完成した水道は、正藍旗・ボショウダイソムの80戸とボショウダイソム役所に、安全な水を供給します。

中国内蒙古プロジェクト2007

活動は、飲料水に含まれている砒素・フッ素による健康被害を防ぐことを目的に実施された。具体的には①「簡易型砒素・フッ素除去装置」の開発と普及、②生態移民政策に安全な飲料水の提供(上下水道の整備)を織込むことである。そのために、③現地関係者との合同会議を開催し、合意点を文書確認しながら、住環境と水問題を総合的に改善するように留意した。

06年度から基礎実験を進めてきた除去装置は、基礎実験や現地での実験を重ね、実用化することができた。この装置は、工場生産型で製作することも当然可能であるが、原則的には当事者自らが製作することができるように配慮し、工夫をかさねたものである。除去装置は現地で製作すると同時に説明会を開き、技術移転を行った。また、中国語版の製作テキストも作成した。

生態移民政策は、環境保護と貧困脱出を目的とした国策(2000年・西部大開発)である。現地でもこの政策が実行され、結果として市街地への移住が促進され急速な都市化が進んでいる。水供給のほとんどを地下水に頼っている現地では、都市化に伴う水不足や人為行為による地下水汚染も懸念される。このような問題意識や水収支の問題などについても意見交換を行い、改水事業との関連についても協議を行ったうえで事業への協力を行った。

安価で簡便な「砒素・フッ素除去装置」の完成で、ともすれば置き去りにされる地域の住民たちに対し、安全な飲料水確保の道を開くことができた。この技術は、当該活動地域だけの成果にとどまらず、同様な生活環境にある多くの地域においても友好な技術となりうる。この技術を広く公開することで更にその効果は高まるものと考えている。

また、現地で勧められている生態移民政策と現実的なすり合わせを行い、新しい住環境のなかに安全な飲料水を確保することができた。この協議の中で、地下水利用のあり方や課題について、多くの知見や情報を提供することができた。今後とも課題となるであろう地下水利用のありかたを、現地の関係者が考える場合の手がかりとなりうるものと考える。

この間の活動で培った人的なネットワークは、今後の問題解決にも活かされるものと思う。

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