Asia Arsenic Network - 特定非営利活動法人 アジア砒素ネットワーク

代表挨拶

みなさま、初めまして。アジア砒素ネットワーク(AAN)代表の横田漠です。

AANの紹介を致します。私たちは砒素汚染のあるアジア地域で安全な水、保健、食の3つの分野で現地の人のより良い暮らしのお手伝いをしてきました。
その一環として、2年前よりバングラデシュにおける思春期女子の栄養推進と健康増進の支援をしてきました。バングラデシュでは15歳以下で結婚する女性は3割を占めると言われ、12、13歳で結婚するケースも珍しくありません。心身が十分に発達していない思春期での妊娠・出産が原因で健康を害している例も多くあります。数々の社会的課題を克服し、世界からも注目されるバングラデシュですが、長期的視点で家族や自分の健康について考え、実行することは難しいのかもしれません。

私たちはこの社会的な問題を直接的には解決しづらいので、食と栄養についての啓発活動を展開しています。食と健康の問題を学ぶことを通じて、思春期女子の早期結婚がなくなるように努力しています。教師、母親、行政と一緒になって取り組み、小・中学校の授業に取り入れてもらっています。生徒たちはタンパク質やビタミンなどがどのような食材に含まれているのかを学び、それを家庭にフィードバックしています。少しずつ、これまでの炭水化物に偏った食事から、野菜、果物、肉や魚、豆、乳製品など栄養バランスを意識した食事をする子どもたちが増えてきました。

また、バングラデシュでは糖尿病や高血圧症など、いわゆる「生活習慣病」で亡くなる方が全体の死因の6割を占めています。贅沢とは無縁の暮らしをしながら、糖尿病になって経済的理由から病院にかかることができず、症状を悪化させて働くことができず、貧困の底に落ちてゆく人が多くいます。私たちは、糖尿病と高血圧症などに加え、慢性呼吸器疾患と慢性砒素中毒症などをあわせ、これらの「伝染しない慢性疾患」(非感染性疾患)を予防する生活習慣づくりと環境汚染対策を住民とともに行っています。先ほどの思春期女子の健康づくりはこの運動の一環です。

一方、「安全でおいしい水」つくりの活動も20年間の実績を積みました。AANは土呂久・松尾の砒素鉱害(第4公害病:慢性砒素中毒症)患者の支援運動体が発展したものです。バングラデシュの農村部の主な飲料水源は井戸水ですが、全国的に3割ほどの井戸水が砒素に汚染されています。そのため、私たちは土呂久・松尾の20年にわたる活動を踏まえて、バングラデシュを始めとしてネパール、インド、中国内モンゴル、ベトナム、パキスタンなどで砒素を含まない「安全でおいしい水」つくりを住民、行政と一緒になって行ってきました。この活動は日本国内においては、水道が普及していない地域における水つくりや公共工事における砒素汚染対策の支援などにつながっています。

私たちの活動の原点である土呂久公害につきましては、高校や大学で講座を実施したり、これまで収集した1065点の資料の保管と閲覧なども行っています。年月が経ち土呂久患者の20年にわたる闘いや土呂久公害そのものが消え去りつつありますが、ここ数年は宮崎県が環境教育の一環として、パネルやDVDの作成、大学生のエコモニターツアーの開催など公害の教訓を次世代に残すための取り組みを行っています。土呂久からアジアへと40年間にわたって活動してきたAANは、グローバル化と環境教育の面で生きた教材となっているようです。

2016年7月のダッカテロ事件を経て、バングラデシュは日本人にとって少し遠い国になりました。しかし、昔ながらの牛を使った耕作や鶏・アヒルが歩き回る農家、その田園の中を思春期女子問題や代替水源設置で飛び回っている青年たち。カレーやミルクティーも美味しく、私たちを惹きつけてやまない国です。いつかまた、きっと近いうちに、皆さんをバングラデシュの旅へお誘いできると信じています。その時には、将来を教育にかけて懸命に努力する子どもたちや大学生、AANのスタッフ、役所スタッフといろんな人に会えますよ。その時を楽しみに。ドンノ バット(ありがとう)

アジア砒素ネットワーク
代表 横田 漠

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