安全な水その1

AANがいう「安全な水」とは、砒素を含まないことは当然で、かつ大腸菌やその他水質項目においてもバングラデシュの飲用基準を満たすものを指している。バングラデシュでは地下水に、砒素のほか鉄、アンモニア、マンガンなどの濃度が高いことが多く、池や川の水はバクテリアや硝酸性窒素汚染の危険にさらされている。この地で、安全な水をつくることは容易なことではない。だが、バングラデシュと日本の専門家の努力により、“安全で、誰が飲んでも美味しい水”を得られる代替水源が生まれ、確実に人々に届いている。

1.ポンドサンドフィルター(Pond Sand Filter)
ポンドサンドフィルター(PSF)とは、池の水を砂利と砂でできたフィルター(濾過装置)を使って浄化する施設である。宮崎水道局と宮崎大学が技術協力をし、1999年に多数の砒素中毒患者がでているシャムタ村に建設したのが最初である。原水である池の水は、雨水が溜まったもので、泥(濁度)のほかには多くの成分は含まれていない。PSFの原理は、池の水を3つの砂利層にゆっくり通すことで、水中の泥や土を除去している。次に砂層で濾過し、透明になった水は貯水槽に溜められる。タンクの上にはブリーチングパウダーを溶かした消毒液をいれたバケツ(塩素液)がセットしてあり、バクテリア汚染を予防するため供給水に常時ポタポタと滴下している。村人は蛇口から持参した水がめに水を溜めている間に、手押しポンプで池の水をくみ上げフィルターに補給する。メンテナンスは、年に1~2回フィルターの洗浄が必要だ。

AANは「代替水源の原水にはできるだけ砒素を含まないものを優先する」ことを方針としている。池の水(表流水)には砒素が含まれていないので、PSFはAANが技術的に最も推奨している代替水源である。だがPSFを建設するには、大きな池の提供が必要だったり、利用者が多いので住民の組織化が難しかったりと、様々な問題がある。小型化したPSFが、今後の技術的課題である。

2.ダグウェルサンドフィルター(Dugwell Sand Filter)
ダグウェルとは、直径が1m、深度数~10mのつるべ井戸のことである。バングラデシュではチューブウェルが普及する以前に飲料用水源として利用されていたが、今ではほとんどが埋められてしまった。砒素汚染が明らかになってから、ダグウェルを見直す動きがあり、AANも代替水源のひとつとして取り組んでいる。ダグウェルサンドフィルターとは、ダグウェルの水を汲み上げ、フィルターで濾過して飲用する施設である。このフィルターはPSFフィルターを改良したもので、砂利層が1~2つ、砂層1つからなりPSFより小型である。ダグウェルの水は、地表から浸透した水と浅層地下水の間の水といえるが、地質によっては砒素が含まれていたり、硬度やアンモニアが高かったりする。水質に合わせて、砂利層の増加、濾過能力を高める構造、エアレーション機能追加などフィルターを改良し、供給水の安全性を確保している。

 小型であるため、大きな設置場所をとらないこと、組合世帯数が少なくまとまりやすい、ダグウェルに親しみを持っているなどの理由から村人の人気が高い。しかし利用水量が増加し、施設周辺が陥没する問題が起こっている。

3.シーリング付き深井戸
チューブウェル(手押しポンプ井戸)が汲み上げている深度15~60mの帯水層は砒素に汚染されている。深井戸とは、砒素に汚染されていない深い帯水層から取水するものである。深井戸は現在のバングラデシュの技術で安価に設置できるので、バングラデシュ政府や国際機関を中心に、年に数万~数十万本を新規設置しているといわれている。一方で将来の深層地下水への砒素汚染拡大の可能性を指摘する声もあり、AANではシーリング付き深井戸の考案に取り組んだ。シーリングとは、汚染した帯水層の水が井戸の外側を通って下部の帯水層へ移動しないように、掘削壁と井戸管の間をセメントで遮断することである。バングラデシュの既存の技術を応用した技術だ。未だ完璧な技術とはいえないが、関係者の関心も高く、今後はモニタリングしながらシーリングの効果を検証し、コスト削減や工法の改良に取り組んでいきたい。水質検査をして砒素や鉄が基準値を満たさない場合は、小型フィルターを追加で設置して、砒素と鉄を除去して飲用に供給している(Arsenic Iron Removal Plant)。

4.簡易水道
簡易水道は、浄化施設、給水塔、給水からなり、約300世帯に水を供給する規模である。
この浄化施設は三日月湖から緩速濾過(生物浄化)システムを利用している。水質浄化のための化学薬品は一切使わず、水中生物による自然の浄化作用を利用している。取水した水の濁度をおとすために受水層で浮遊物を自然沈降させ、さらに砂利層を通してほぼ100%固型分をろ過してしまう。最後に砂層を通し、砂層上面にいる水中生物の活動によって浄化される。浄化した水はすべての水質基準を満たしている。処理水は、給水塔上部のタンクに送り、自然圧を利用して朝夕の2回村内の給水栓へ供給される。専属のケアテーカーが毎日管理している。

AANがつくる代替水源の特徴

~求められる技術開発~
AANが建設した代替水源施設は、今も毎日村人に利用されている。今後も少しずつ安全な水を届ける人々を増やしたいというのが私たちの願いだ。しかし、AANが期待されていることはこれだけではない。さまざまな分野の専門家が集まり、バングラデシュのジョソール県にしっかりと足場を持っているAANは、これまでの経験を生かしてより持続性かつ定着性の高い代替水源技術を考案し、実際に試作とモニタリングをおこない検証することができる。その成果をバングラデシュ政府や砒素対策に関わる国際機関、NGO、研究者らに発信し、共に議論しながら技術開発に関わっていくことも大きな役割だ。今後も技術協力の分野で貢献していくには、今の技術で満足せずより良いものを現地の技術者と共に目指していく姿勢を忘れてはならない。“技術屋さん”の安全な水を求める道のりはまだまだ続く。