地下水砒素汚染のメカニズム

1980年以降、井戸水の砒素汚染がアジアの各地で確認されています。 1980年に中国・新疆ウイグル自治区、1982年にインド・西ベンガル州、1987年にタイのロンピブン村、1989年に中国・内モンゴル自治区で砒素 中毒患者が発見されました。その後、バングラデシュで約3500万の人びとが砒素に汚染された水を飲んでいることがわかり、他の国でも調査が始まりまし た。その結果、地下水の砒素汚染は、アジアの大河流域で、共通して起こっていることがわかってきました。
中国の黄河流域、ベトナムのレッドリバー流域、カンボジアとベトナムのメコン川流域、ミャンマーのエーヤワディー川流域、ネパール、インド、バングラデシュにそそぐガンジス川流域などの大河をさかのぼると、ヒマラヤ山脈、チベット高原、クンルン山脈など、中生代後期の造山運動によって形成された山塊にたどりつきます。ここに噴きだ したマグマの中の砒素が、風化して河川によって運ばれて中・下流域に堆積しました。20世紀の後半になって、飲料水が地表水から地下水に転換するのにとも ない、眠っていた砒素がチューブウエル(管井戸)で汲みだされて、住民の健康をおびやかすことになりました。地下水を灌漑に使っている地域では、砒素によ る土壌や農作物の汚染も懸念されます。

砒素の源 ア ジアの大河をさかのぼると、ヒマラヤやチベット高原にいきつきます。インド亜大陸とユーラシア大陸のプレートがぶつかり、ヒマラヤなどが造られたころ、マ グマがせりあがってきて砒素をふくむ岩石をつくった、といわれています。岩石が風化し、砒素は大河によって運ばれ、その流域に堆積しました。砒素をたくわ えた植物が埋もれてできたピートから高濃度の砒素が見つかります。砂の層にも数ppmの砒素があります。

酸化説と還元説 砒 素が地下水にとけだすメカニズムに関し「酸化説」と「還元説」の論争がつづいています。砒素を吸着した硫化鉄が、酸化条件のもとで3価の鉄と硫酸イオンに 分解し、砒素が離れて地下水に溶け出す、というのが「酸化説」です。灌漑用地下水の大量汲みあげによって、地上の酸素が地下におりてきて酸化条件をつくっ ている、とみます。鉄酸化物に吸着されている砒素が、還元条件のもとで3価の砒素に変わり、鉄から離れて地下水に溶け出している、というのが「還元説」で す。さまざまな条件によって、地層の砒素は地下水に溶出するので、地域によっては、上記2つの説以外の化学変化が起きていることも考えられます。

微生物の関与 微 生物の働きが活発になって、地下の酸素が消費されると、地下は酸化条件から還元条件に変化します。微生物の活動を促す栄養分として、地層に存在する有機物 や、地表から浸透するし尿や肥料などが考えられます。前者だとまったくの自然現象ですが、後者だと砒素の汚染に人間の生活や生産活動が影響していることに なります。