Asia Arsenic Network - 特定非営利活動法人 アジア砒素ネットワーク

「農業における水管理と気候変動適応推進事業」終了のご報告

2021年の2月からバングラデシュジナイダ県で実施してきた「農業における水管理と気候変動適応推進事業」は、2024年1月31日にたくさんの学びを得て終了しましたので、ご報告させていただきます。

成功事例の視察

プロジェクト目標の達成度

この事業は、1.農業普及局と農民の関係構築、2.水危機と気候変動の対応策に関する農民の理解醸成、3.農民の水管理能力の強化、4.対象地域の農業における気候変動対策の導入、5.水管理と気候変動適応の効果検証、6.成果発信の6つの成果の達成を通じて、プロジェクト目標「農民が持続可能な水利用と気候変動に強い食糧生産方法を通じて適地適作を実践する力を養うこと」を目指し3年間かけて実施してきました。

2023年8月に実施した支援対象者(1500人)に対する終了時調査を通じ、以下の通り各成果の指標達成が確認されました。

成果1指標では100%(開始時70%)の農民が農業普及員からの助言を受け、助言内容についても増加が確認された。成果2では水危機と気候変動を踏まえて100%の農民が年間計画を作成した(うち47%(3%)は紙に記載)。成果3では、節水農業導入は100%(15%)、雨水浸水対策99%(0.1%)と改善。成果4では、気候変動適応技術の導入100%(0%)、適切な種管理方法の導入100%(76%)、土壌管理方法の導入100%(58%)。これ以外に、自然害虫管理を導入する割合は開始時の1%から98%へと大きく改善しました。さらに政府と共に形成した天候等警報システムの利用率は100%で、うち99%が「効果を感じる」と回答しており農家の役に立っていることが分かりました。

成果5関連では、コメ中のヒ素濃度を低減する水管理方法の検証実験を農研機構の協力を得て実施し、その効果を確認しました。成果6関連では、中央レベルでの最終報告会開催した他、マスメディアでも取り上げられ成果普及をすることができました。日本国内でも第28回ヒ素シンポジウム(2023年11月)にて本事業の成果を報告しました。上記の通り、各成果の指標の達成度は高く、この結果としてプロジェクト目標は達成されたと考えることができます。

埋設かんがいを3ヵ所に設置
雨水貯留池を50ヵ所掘削
支援農家の生産した無農薬野菜を販売するセーフフードコーナー

上位目標達成見込み

上位目標「対象地域において水管理と気候変動適応を通じ持続可能な食糧生産形態が強化される」の達成状況

対象地域において最も深刻な問題は干ばつと予想不可能な降雨であり、持続可能な食料生産の基盤は適切な水管理にあると言って過言ではありません。事業開始時は危機意識はあっても対応策をとっていない農家がほとんどでしたが、対象農家1500人のうち1331人が間断かんがい稲作(AWD)を導入、残りの169人は乾季の稲作をやめ畑作に転作しており、全農家が対策を導入したことが確認されました。これらの節水かんがい面積の合計は850ha(東京ドーム185個分)であり、2023年乾季の節水量は600万トン、同県200万人の3年分の飲料水量と匹敵する量と推計されます。もちろん、雨季にさえ干ばつに悩まされる昨今、これにより水不足が直ちに解決することを意味しません。しかし、水資源利用の効率性をあげつつ、生産量を維持する持続可能な食料生産形態の強化に貢献できたと考えています。

さらに、1500人全員が「収入が増えた」と回答。この他にも「女性家族の参加の増加」「農業に関する家庭内で話し合いが増加」「栄養改善」など全員が良いインパクトがあったと回答しており、事業終了後の効果の持続が期待できます。農業における水管理と気候変動適応策は、支援対象者以外に広がっていることも確認されており、上位目標達成に向けた土台は形成されたと考えられます。

本事業は、外務省NGO連携無償資金協力を活用し実施しました。本事業を支えていただいた外務省民間援助連携室、在バングラデシュ日本大使館、農研機構、Abiar Raman氏(BSMRAU)、現地側事業関係者およびスタッフに謝意を表します。

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