Asia Arsenic Network - 特定非営利活動法人 アジア砒素ネットワーク

地下⽔に過度に依存する農業から、持続可能な農業へのシフトは可能か︖

異常気象や環境悪化の影響を受け、いかに持続的に食料を生産していくか、世界的な課題となっています。

50年以上にわたり、先進国がアジアやアフリカで主導してきた食料支援は、画一的な方法で米や麦の増産を目指すものでした。そのおかげで多くの人が飢餓から解放されましたが、その方法は水を含む資源を衰退させ、環境を悪化させ、このままでは持続しないことが分かっています。また、自分たちで何を作って何を食べるかを決める「食料主権」を奪い、人々の栄養状態、健康、福祉を後退させたとも言われています。

バングラデシュにおいても、気候変動の影響は強まり、米の増産を支えてきた地下水灌漑の水位低下が起こっています。AANは、食料生産を持続可能なものにし、また、人々の健康や暮らしも守るために、小規模農家、市民社会、政府機関、研究機関とともに、2017年から活動をしています。現在はヒ素汚染のあるバングラデシュ・ジナイダ県において、「持続可能な水利用と気候変動に強い食糧生産方法を通じて適地適作を実践する力を養うこと」をプロジェクト目標とする「ジナイダ県の農業における水管理と気候変動適応推進事業」を2021年2月から実施中です。

このプロジェクトではまず、農民の相互学習の場(フィールドスクール)を50ヵ所で作りました。ここで、1500人の農家が、AANスタッフと政府の農業普及員から、持続的な農業、具体的には農業における水管理(地下水保全、洪水対策、地下水中のヒ素等有害物質の拡散抑制)と気候変動適応(適応品種の確保、作付時期や栽培方法の工夫、土壌改良、病害虫管理、警報システム導入等)を学び、それらの実践に必要な助言を受けています。その中で、適地適作の実現に重要となる作付け年間計画を各農家が作成することも支援しました。

AANは、気候変動への緩和・適応策、効率的な水管理方法、土壌回復方法など、すでに確立されている方法を、農家に紹介し、その結果を調査し、現地の人と共有し、今後の地域の農業に活かしてもらえることを目指しています。これまでに、気候変動に関する農民への意識調査、灌漑井戸ヒ素調査、土壌と作物中の重金属調査、コメ中のヒ素濃度、間断灌漑(AWD)調査など様々な小規模調査を現地の農業大学とも連携して実施しています。

開始から1年半がたった2022年8月、事業に参加する農民1500人に対する中間調査を実施しました。2021年と2022年は、乾季大雨、雹、雨季干ばつといった異常気象続きでしたが、農民はAANスタッフと政府職員から支援を受け、被害を小さく抑え、90%以上の農民が収入を増やしていたことも分かりました。また、前述した年間作付け計画を「紙に書いてレビューをしながら」きちんと管理している農家ほど、収入を増加させ、気象などによる損失を小さく抑えられていたことも確認されました。女性家族の参加が増えた、農業についての家族内の話し合いが増えた、栄養改善ができた、などの良い効果も認められました。調査分析結果を、現場のスタッフから現地の政府関係者と農民の代表に報告したところ、大きな関心を集めました。異常気象による損失は『あきらめるしかない』のではなく、手立てをすれば小さく抑えられるという自信と希望として受け止められたようです。

他方で、今後この取り組みを進める上で、甚大化する気候変動がチャレンジ対象となり、継続的な技術的支援を求めていることも明らかになりました。 

持続可能な農業にシフトするためには、農民がチャレンジと感じていることに丁寧に向き合い、農民が自分の農地に適した作付けを選び、最適な方法で生産し、利益を得る成功体験を積むための支援こそが求められています。

このプロジェクトは2023年2月から最終年の3年次が開始されます。3年次は、健康的な生産物の販売にもチャレンジします。今後とも応援お願いいたします。

*「ジナイダ県の農業における水管理と気候変動適応推進事業」は外務省NGO連携無償資金協力を活用し実施しています。

30人分の作付け計画(農民のグループ活動にて作成)

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