Asia Arsenic Network - 特定非営利活動法人 アジア砒素ネットワーク

【報告】バングラデシュNCDコーナー相談機能強化事業完了

バングラデシュでは、糖尿病や高血圧が若い人の間でも増加しており、社会問題になっています。AANは慢性ヒ素中毒症とあわせ非感染性疾患(NCD)の予防と管理の支援を2013年より行っています。

バングラデシュ政府保健サービス局は増加するNCDに対応するため、政府病院で診断、登録、指導、相談、治療、データ管理、フォローアップなどを行うためのNCDコーナーの設置を段階的に進めています。「ジョソール県における非感染性疾患リスク低減のための病院内相談室強化事業」では、2019年よりジョソール県内4つの郡病院と県病院において、NCDコーナーの立ち上げと社会機能強化を開始しました。

コロナ禍の活動 2020年からの新型コロナウィルスの感染拡大により、政府病院はクラスターの発生や医療のひっ迫など様々な問題が発生しましたが、NCDコーナーとコーナー周辺の感染防止対策、啓発映像視聴スペース整備、データ管理システム強化、フィールドと病院間の連携強化などを行うことができました。最終年の2021年度は、「新型コロナウィルス感染防止に対応したNCD予防と管理モデルを確立し、NCD患者の保健医療サービスの利用を促進する」ことを年次目標とし活動を進めました。バングラデシュでの新型コロナウィルス感染防止のため、4月~8月までロックダウンとなり、その後も2ヵ月程度活動の規制が続きましたが、関係者の努力により全ての活動を無事終了し、政府機関に成果を引き継ぐことができました。

NCDコーナーの利用者 AANが支援したNCDコーナーには、累計 34,275(女性25,001人、男性9,274人)のNCD患者が登録をし、半数以上が経過観察を継続しています。年代別で見ると登録患者のうち54歳未満の患者が占める割合は女性78%、男性55%と、NCDコーナーの利用者のほとんどが働き盛りの若い世代であることが、最終セミナーおよびその後のマスメディアによる報道でもこの点がハイライトされました。

2つの調査 NCDコーナーで登録した後、次回受診日に来ない患者が多いことが、データベースの分析から明らかになりました。政府側の要請もあり、こうしたドロップアウト患者の実態調査を行うことになりました。この調査は日本人専門家の山本有香氏が担当し、ドロップアウト患者調査報告にまとめました。同様の問題は今後全国で起きることが予想されるため、NCD対策課とも共有をしました。

また、2021年11月~12月に、2019年5月~6月に実施したベースライン調査と同じ対象・内容にて住民に対してエンドライン調査を実施しました。ベースライン調査結果との比較を分析した結果、意識や予防行動については大幅な改善が見られ、9 割以上の回答者が、新たに NCD サービスを CCあるいは UHC で受けるようになった人が周囲にいると回答し、NCDサービスへのアクセスが改善されたことがうかがえます。詳しくは、ベースライン調査とエンドライン調査比較報告書にてご確認ください。

経緯 AANは2011年当時よりバングラデシュ政府保健サービス局NCD対策課と協力関係を築き、2017年7月には同課とプロジェクトの枠を超えた包括的連携協定を結び、NCD対策における課題を抽出し対応策を共に考案して方針を決定してきました。この間、外務省日本NGO連携無償資金協力を活用し、3つの事業を実施しました。「バングラデシュ国非感染性疾患リスク低減事業」ではバングラデシュ初、農村部と地方都市のNCDリスクを明らかにし、予防と早期発見の対策モデルを形成し、「クルナ管区の非感染性疾患に対するコミュニティ強化事業」では先行案件の成果を既存の保健システムにのせクルナ管区に拡大して実施しました。

政府への引継ぎ バングラデシュ政府は第4次保健・人口・栄養セクター開発プログラム(HPNSDP,2017-2022)において、NCD対策強化の柱として全国495の郡病院にNCDコーナーを開設することとしましたが、これまでのところNCDコーナーが稼働しているのは80ヶ所に留まっています。対策をしないとNCDによる重症化と若年死亡は増加の一途をたどるため、政府はNCDコーナーの設置を加速したいと考えています。本事業「ジョソール県における非感染性疾患リスク低減のための病院内相談室強化事業」ではNCDコーナーに求められる全てのサービス―カウンセリング、測定、診断と治療、データ管理と活用、紹介・逆紹介を含む地域との連携-を低コストで実現し多くの住民にNCDサービスを届ける社会実装に成功しました。保健サービス局は、社会全体の参加を促すコミュニティエンパワーメント、患者自身の健康管理を持続させるため薬のみに頼らずカウンセリングを重視するアプローチ、使いやすさを重視したデータ管理システムなど、費用対効果の高さを高く評価し、本事業の成果を政府の方針の中に取り入れ、他地域へ普及する意欲を示しています。

今後に向けて AANの非感染性疾患対策は一度終了しますが、【2025年までに非感染性疾患による若年の死亡を25%減少させる】という国際目標にこれまでの経験とスキルを活かして今後も貢献していきたいと考えています。皆様からのご理解とご支援といただければ幸いです。

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