土呂久に見学案内板設置
宮崎県環境管理課は、3月29日(金)に土呂久に見学案内板を設置しました。建てたのは、高千穂町土呂久の①公民館前に「土呂久地区案内図」、②南組の唵婆嶽神社横に「南組の見学案内」、③鉱山跡広場に「土呂久鉱山跡地の見学案内(1)」、④鉱山社宅跡に「土呂久鉱山跡地の見学案内(2)」、⑤ふれあいバス終点のお堂脇に「惣見組の見学案内」の5か所です。
「畑中組の見学案内」は、来年度以降に建てる予定です。
見学者のための案内板は、宮崎県環境管理課が進めている土呂久に学ぶ環境教育事業の一環として建てられたものです。案内板の制作・設置にあたっては、高千穂町、土呂久公民館、特定非営利活動法人アジア砒素ネットワーク(AAN)が環境管理課に協力しました。(AANは企画の段階から、見学地の選定、説明文の原案作成、写真提供などで協力しました。)行政と地元と民間団体が土呂久で初めておこなった共同事業になります。
土呂久地区案内図にでている見学個所には1~31の番号が振ってあります。それを見れば、見学地が公害に関係した場所だけではないことがわかります。案内板設置の目的は、「公害を風化させない」というふうに狭く限定してはいません。祖母山系の谷間で、何千年も豊かな自然とともに生きてきた人びとの営みを通して、自然環境の大切さを学ぶことが目的です。公害による悲惨とそれを乗り越えた闘いは、長い歴史劇の1幕という位置づけです。
見学地を整理してみます。(番号は、案内図に振っている番号です)
<山間地の農業の歴史>
28.御米田=18世紀初めに湧き水をつかって開いた土呂久でもっとも古い水田。
2.上寺用水=1861年に上寺の人たちが130メートルのトンネルを貫通させて掘り抜いた。
3.棚田=大正期につくられた、田んぼより面積が広い石垣。
<山岳信仰の足跡>
30.薬師堂=600年以上の歴史をもつ薬師如来、日光・月光菩薩、12神将を祭っている。
26.唵婆嶽神社=江戸時代には祖母山の下宮「八方八王神」の一社「折原祖母宮」だった。
25.八幡宮=土呂久の先祖ゆかりの源氏の氏神。大正初期まで祭日に神楽が舞われた。
5.お堂=十一面観音、金屋子神、弘法大使像が納めてある。
<銀山時代>
10.銀山時代からの墓地=江戸時代に全国から集まった金堀工の墓がある。
<亜砒酸製造と周辺の被害>
12.亜砒焼き窯跡(旧窯跡)=大正9年から昭和16年まで亜砒酸をつくった。
14.新窯跡=昭和30年から37年まで亜砒酸をつくった。
11.旧窯に隣接した民家跡=梁のほこりから高濃度の砒素を検出。過去の煙害を裏付けた。
17.樋の口跡=新窯による煙害を避けるため、移住したり子どもを親戚に預けたりした。
20.向土呂久墓地=公害の犠牲になった幼い子らの墓もある。
29.牛馬墓地=公害で死んだ牛馬が次々と埋葬された。
27.十連寺柿=煙害に耐えて生き続けた樹齢170年の柿の木。紙芝居の題名にもなった。
16.モカさんの大石垣=農婦が苦労して築いた大石垣の上の田は鉱山の廃石場になった。
<鉱山最盛期の繁栄>
9.鉱山社宅跡=所長住宅、社員住宅、鉱夫長屋、独身寮などが建っていた。
7.テニスコート跡=昭和10年代、当時は珍しかったテニスコートがつくられていた。
<患者救済の闘い>
6.故佐藤鶴江宅=被害者の運動の先頭に立ち、公害の苦しみを詠んだ短冊を家に貼った。
13.土呂久山荘「吹谷」=被害者と支援者の集会に使った。今は見学者の学習拠点。
<環境復元>
19.ズリ山の跡=公害が社会問題化したあと、ズリ(捨石)山に土をかぶせ草木を植えた。
18.大切坑=戦後の主要坑道の跡。坑内水の水質改善の工事をおこなっている。
<よみがえった自然>
1.惣見大橋からの眺め=うしろに滝が流れ落ち、眼下に庭園のような風景が広がる。
4.石舞台=田んぼの中に残された大岩。平らなので梨の花見の舞台になる。
15.鉱山跡広場=鉱山操業当時は映画館などがあった。現在はサクラの花見を楽しむ。
土呂久では、上記の見学地を回るだけでなく、こんにゃく作りなど農産物の加工を体験したり、独特の地質や鉱物を探したり、ゲームをしながら自然と遊んだり、夜は満天の星空を楽しんだりできます。やがては、見学者のための展示施設、休憩・食事の施設(センター)も必要になることでしょう。センターができれば、土呂久の見学地を歩いて回りながら、出会った人と会話し、暮らしを垣間見て、自然を満喫しながら、環境について体験的に学ぶ場(土呂久フィールドミュージアム)に展開する可能性がうまれます。
いま、土呂久の人たちが切実に願っているのは、過疎・高齢化の進んでいく地域を活性化して、元気な集落を取り戻すことです。
アジア砒素ネットワークは、今回の見学案内板が土呂久に関心をもつ人を増やし、外から見学に来た人たちが土呂久を元気づけ、過疎・高齢化・獣害を克服する道を切り開く第一歩となることを期待しています。
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