その他の国の砒素汚染

チリの砒素汚染

チリ北部にある人口30万人ほどの港町”アントファガスタ”では、上水道によって砒素汚染が起こりました。当時25万人くらいが砒素汚染を受けて、世界最大の砒素汚染だと言われていました。

南米大陸の太平洋側は、フンボルト寒流の影響で非常に乾燥が強く、エクアドルからペルー、チリ北部まではほとんどが砂漠地帯です。水が乏しいのでその周辺都市では水問題が深刻でした。都市が大きくなるとアンデス山脈から水を引いてこなければならず、アントファガスタでも300km離れたアンデス火山帯のふもとから水を引いて水道水として利用しました。ところがこの水の中に砒素が入っていたために、1962年ころから砒素中毒患者がたくさん発生しました。しかし他に使う水がないので、1970年ごろまでその水を使わざるを得ませんでした。1970年にようやく、市の郊外に大きな砒素浄化施設を建てて、砒素を化学的に処理し除去した水が飲めるようになりました。それ以降は砒素中毒の発生が激減しました。

アルゼンチンの砒素汚染

アンデス山脈の東側にあるアルゼンチンは、これまで世界で最も長く砒素汚染水の問題に悩んできた国です。アルゼンチンのおよそ半分の州から砒素汚染が見つかっています。

アルゼンチン中央のコルドバ州は砒素汚染では最も有名なところです。ここは大平原のパンパ地帯をなし、ほとんど丘や山はありません。チキタ湖から南に500~600kmにわたって砒素汚染地帯が伸びています。またリオ・テルセロ川の水も砒素濃度が高く、この川の水でも砒素中毒が起こります。

この地帯にある人口3万人ほどのベル・ビルという都市では、「ベル・ビル病」と呼ばれた風土病がありましたが、1913年にこれが慢性砒素中毒症であることが判りました。この市は、1930年代に上水道を完成させていて、テルセロ川の水を化学的に処理して上水道源にしています。

同じくこの付近の町で、ロス・スルヘンテスという町では、1990年の時点でも人口3000人のうち200人の砒素中毒患者がいました。この町に上水道ができたのは1988年ということで、水問題の対策に非常に長い年月がかかっています。

このパンパ地帯では、点在している農家が人口の1割ほどあり、そこには上水道が引けないため、砒素汚染のある井戸水を今でも使い続けているようです。

ハンガリーの砒素汚染

ヨーロッパのハンガリーでも地下水の砒素汚染があります。ハンガリーでは1941年頃から、バックス・キシュクン地方の各地で砒素中毒が見つかってきました。この地方の井戸水の砒素濃度は0.05~4.0ppmと高く、典型的な砒素性皮膚所見とともに、肝硬変などの肝障害、胎児性砒素中毒の症例なども報告されています。

これらの砒素汚染地は、ドナウ川とチサ川の間流域の低平な砂質台地に位置しており、ハンガリー大平原の西半分を占めています。黄土に覆われたこの土地は水に乏しく、堀抜き井戸から生活用水と灌漑用水を得ています。

この地域では、汚染された井戸はすべて封鎖され、安全な井戸だけを使用することで水対策を終えています。

その後、ハンガリー北部のチサ川流域、ドナウ川の西のバランヤ県の一部、さらに国境を超えたユーゴスラビアやルーマニアのトランシルバニアでも砒素汚染が広がっています。

2003年の報告によると、地下水を農業用に使うことはなく、すべて上水道用に使っています。ドナウ川などの河川水は汚染がひどく飲料水として適切ではないという理由から、上水道源としてはドナウ川などの河川水は使わないと決めているようです。

ベケシュ県では、化学的に砒素を処理した地下水を、砒素が混じっていない水と混ぜて砒素濃度を下げて利用しています。WHOの砒素基準は0.01ppmで化学的処理だけでそこまで下げるのは難しいしお金もかかるのでそのような方法をとっているようです。具体的には、まず塩素で亜ヒ酸を砒酸に変えて、それから塩化亜鉛や過マンガン酸カリウムで沈澱させ、砒素を処理しています。

一般的には、砒素汚染水対策としては、安全な水をほかから引いてくるのがよいのですが、汚染水しかない場合は化学処理が必要になります。化学処理には施設のほかにもランニングコストがかかるので、解決策としては最も高くつくやり方です。