バングラデシュの砒素汚染

バングラデシュは日本の約4割の国土に世界で7番目に多い人口1億6,000万人が暮らす、世界で最も人口密度の高い国の一つです。国土の大部分はインド亜大陸のベンガル湾沿いに形成されたデルタ地帯であり、これらはヒマラヤを水源とするガンジス川、ブラマプトラ川、メグナ川などの大河によって形成されています。この3つの大河流域とその南部地帯に砒素汚染は広範囲にわたって広がっています。汚染率、人口ともに高いのに加えて、多くの人が1年を通して地下水に頼っているバングラデシュは、地下水砒素汚染が最も深刻な国と言われています。

バングラデシュで最初に砒素に汚染されたチューブウェルが見つかったのは1993年のことでした。インドの西ベンガル州で問題化した砒素汚染が国境を超えて広がっているのではないかと懸念され、バングラデシュ政府機関がインド国境沿いで調査を実施したのです。

1998年~1999年には、イギリス国際開発省により、全64県中60県で、37km²に1つの井戸水を調査した結果、3,534本の井戸のうち27%がバングラデシュの飲料水基準を超える砒素を含んでいました。(WHO基準では46%)

2003年には、バングラデシュ砒素汚染緩和水供給プロジェクト(BAMWSP)主導のもと、政府機関、国際機関、NGOなどの協力により、全国470郡のうちの砒素汚染のある271郡にある495万本の全井戸のスクリーニング調査を実施しました。バングラデシュ基準値(0.05mg/l)を超える井戸は全体の29%で250万本の井戸が汚染されており、危険な水を飲んでいる人口は3,500万人と推計されました。これらの井戸は”危険”を知らせるバロメーターとして赤色のペンキで塗られました。BAMWSPは、汚染率が80%以上の村(8,540村落)を緊急に対処すべき村落として同定し、砒素対策はそれらの村落で優先的に実施されていきました。

その後、バングラデシュ政府による給水プログラムや国際機関やNGOの水対策により、深井戸やコミュニティ砒素除去施設など10万基以上の代替水源が設置され、450万世帯に安全な水が届けられましたが、依然として2,000万人以上が安全な水を必要としています。

バングラデシュでは、砒素汚染対策に関連する分野でたくさんの課題が山積しています。

地下水には砒素以外にも、地域によってはマンガン、ウラン、塩分の汚染も各地で見られます。これらを含んだ対策が要求されています。

様々な機関によって代替水源の建設が行われていますが、それらの包括的なデータ管理とモニタリング体制の確立も必要です。

砒素中毒患者については、現在、バングラデシュ保健・家族福祉省がつくった枠組によって砒素中毒患者に登録されている人は38,000人います。しかし、砒素中毒に関する知識を持つ医療関係者が不足しているため、地域によっては未発見の患者が存在したり、病院に行っても適切な治療を受けることができなかったりと、医療体制の整備にはたくさんの課題があります。

肥沃なデルタ地帯を最大限に活用した灌漑農業では、大量の地下水を汲み上げており、砒素を含む地下水による土壌汚染や農作物への影響、食物連鎖の影響などの研究も急がれています。

バングラデシュでは、近年爆発的に増えている都市人口に対応する都市給水や、農業用水の大量の汲み上げによる地下水位低下の問題も全国的に起こっています。これまで地下水に依存してきた水利用の長期的な水資源管理体制が求められています。

このように、まったなしの砒素汚染地域への安全な水供給とともに、長期的な水資源利用・管理体制、医療・農業分野も含めた総合的な対策が求められています。

<アジア砒素ネットワークの活動>

アジア砒素ネットワークは、1997年からバングラデシュのジョソール県を中心に砒素対策を実施しています。現地スタッフとともに13年以上に渡って持続的な活動を展開してきました。活動の詳細は、AANの活動のページをご覧ください。