タイの砒素汚染

タイ南部のナコンシタマラート県ロンピブン村に起こった砒素汚染は、鉱山活動がもたらした人為的な砒素汚染でした。環境・人体への砒素汚染被害としては史上最大規模のものと言えます。

この村では、100年程前から「カイダム」(黒い熱病)と呼ばれる風土病がありました。この病気が砒素中毒だとわかったのは、1987年のことでした。この地区に隣接する山地は鉱物資源に富み、100年以上前から鉱山活動(錫の採鉱・選鉱)が盛んに営まれました。長年の鉱山活動はこの地区の土壌と水の砒素汚染をもたらし、住民は井戸水(最高4.45ppm)による慢性的な砒素汚染を被ってきたのです。

調査の結果、人口1万4000人のうち約1500人が砒素中毒にかかっていることがわかりました。

タイの環境省は、水対策として17km離れた水源から水を引き、一部を村の中心に給水しました。村人には井戸水使用禁止と雨水利用を奨励し、水瓶と簡易取水装置を整えさせました。しかし、さまざまな慣習から一部の住民は雨水の飲用を好まず、いまだに井戸水を飲用する人もいます。

タイの保健省によると、1992年までに砒素中毒特有の皮膚病変が見られる患者は1,500人以上に上まわっています。AANのこれまでの2回の現地調査でも、中毒症は相当に高度で、多くの皮膚ガン患者が見られました。

環境保全対策や安全な水の供給、住民の健康管理対策などまだまだ課題は山積しています。一旦重大な砒素の環境汚染が生じると、その回復が容易ではない、その代表的な事例と言えます。